アイドルとしての重いプレッシャーとプライドを歌う SixTONES「人人人」感想

「コンテクスト」が大好物のオタクなので、「バラエティについて」語るバラエティが好きだし、「映画について」語る映画はちょっと姿勢を正して鑑賞する。だから「アイドルについて」語るアイドルソングにも、「おっ」となる。なんなら「おおおっ」となる。

新年早々、1月1日にYouTubeでパフォーマンス動画が公開されたSixTONESの新曲「人人人」は、まさに「アイドルについて」語るアイドルソングだった。もちろん「おおおっ」となる。しかもそのパフォーマンスがなんというか、想像を超えていた。

SixTONESはいつもこちらの想像に囚われず、いつも前例を打ち崩そうとするグループだと認識しているのだけど、今回はまたそれが突き抜けていた。とにかく圧倒されるような素晴らしいパフォーマンスだったのだ。


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演奏が始まる中、バンドセットの中心に堂々と入っていき、円になり向かい合うメンバーたち。1人1人の前に他の5人がいる。お互いの目の前にお互いがいる。先陣を切るのはやっぱりジェシーだ。SixTONESのヒーロー、メンバーたちから尊敬され信頼される唯一無二のスター。楽器のような歌声を響かせ、ほかの5人はその声に盛り上げられて、嬉しそうな顔をする。もうここまでですでに最高。

 

この曲を聞いてまず驚くのは、メンバー全員がラップパートに挑戦していることだと思う。今までSixTONESのラップ担当といえば田中樹だった。正確に慎重に、ざらついた荒っぽい声でフロウを響かせる樹のラップは、いつだって高い期待に応えてくれるカッコよさだ。しかし…一体いつから、ラップができるのは樹だけだと錯覚していた?(ウソ、きっとみんなうまいと思っていたけど)

やはり楽器のように自由自在に遊んで聞かせるジェシーのコミカルな声、メロディの代わりにビートにのせても変わらない京本大我の艶声、パワフルでエモーショナル、いつも活き活きとして表現豊かな森本慎太郎の声が続く。優しさよりも粗っぽさが先に立った髙地優吾の声は個性的で新鮮だし、曲調に合ってる。高揚がまっすぐに伝わってくる松村北斗のがなり声の魅力には、これまで散々いろんな意味でやられてきたけど、やっぱり印象的に響く。

6人が6人、それぞれ「自分らしい」表現方法を模索しながら、それが合わさった時の凸凹なのにしっくりくる不思議なチームワーク。1人1人も他に代えがたく個性的なのに、6人集まった時にその個性が最大限発揮される。相乗効果で6が100にも1万にもなる爆発力。こういうところがSixTONESの魅力だ。

「格付けチェック」を見た後、大晦日の残りのかまぼこをかじりながら見れる動画ではなかった。開いた口が塞がらず、こりゃあマジで新年早々とんでもないものを放り込んできやがったぞ…と誇張なしに思った。今年もSixTONESが真剣に音楽を楽しんでいる!

 

パフォーマンスの素晴らしさは筆舌に尽くしがたく、どうか実際の映像を見てほしい。できれば繰り返し見てほしい。さて、「人人人」の歌詞である。

そもそも「人人人」ってなんぞや?と曲タイトルが発表された時からずっと思っていたわけなんだけども、慎太郎のラップパートでその真意が判明する。

耳かっぽじってイヤモニはめて

手のひらに“人”“人”“人”って書いて飲んで書いて飲んで

なるほど!「手のひらに“人”って3回書いて飲みこむ」は「緊張をほぐすためのおまじない」として知られる行為だ。なんで気が付かなかったんだろう。

「耳かっぽじって イヤモニはめて」という歌詞から「手のひらに“人”“人”“人”」で連想されるのは、音楽番組やコンサート前の舞台裏で待機をする彼らの、おまじないでもせずにはいられない、耐え難い緊張感だ。「人人人」は、アイドルとしてステージに立つプレッシャーの歌だったのか!

まずはそんな「裏側」を赤裸々にこちらに見せてきたことに動揺する。キラキラした「アイドル」像、時にファンは向こうにいるのが人間だということを忘れてしまう。だから、楽曲の中から彼らが緊張も委縮もする、紛れもなく人間であると突き付けてくる歌詞にドキッとする。でも、それだけで終わらない。

 

Let me hear good notes, let me see beautiful stage

控えも替えもなんもいらねっ そう笑いだすsoul

Let me hear good notes, let me see beautiful stage

ためらいもlieもなにもかにもいらない

イメージだけ

「いい音を聞かせて、美しいステージを見せて」という英語の歌詞。これは…私たちファンの声だろうか。舞台裏で緊張に震え、おまじないに頼るアイドルに向けて、無邪気に欲しがるファンの声。ひどく残酷に響いてくる。それでも、「控えも替えもなんもいらね」「ためらいもlieもなにもかにもいらない」と諦め、踏ん切りをつけて、イメージを手にステージに上がる決意を固める…。そんな映像が目に浮かんでくる。だとしたら、次のサビはステージに立つ彼らの心境ということだろうか。

 

ほら笑って 人人人 夢を与えて 人人人

我らfactory ゆえに100通り

何があったってshow time

もう1回ね 人人人 夢を描いて 人人人

あぁ 飲みこんで

そう何があったってshow time

「人人人」で連想されるのが客席にいっぱいのファンに変わる。アイドルに熱狂し夢を見る人々。アイドルはあの手この手で観客を喜ばせる。その途中でもやはり吐きそうな緊張感に襲われ、おまじないで自分を奮い立たせる。「飲みこむ」という行為には、「我慢する」「黙る」「耐える」などの意味も付随するような気がする(映画『swallow』がそうだったように)。

押しつぶされそうなのに、ギリギリの状態でなんとか立っている彼ら。ショーマストゴーオン。穴を開けることは許されない。そんなプレッシャーに、私たちファンはみんな多かれ少なかれ、気づいていたのではないか。でも「そういうもの」だと思ってしまっていた。

 

しかしこの曲の歌詞は、そんな大きすぎるプレッシャーに潰されそうな一方で、ステージに立った時の高揚感、スターになりたいという野心、この仕事をやるしかないんだというやけくその感情も伝えてくる。

ホラ オレラ ステージノ ウラジャ

ドウカ シソウデ イタシモウシソウロウ デモ

ホラ フケバ ステージノ オウジャ

チョシャ オレラ ニンニンニン(いやいや)人人人

飲まれる前に飲んでしまえ come again

人がいなきゃ生きていけないの

支え合ってんだろ? We are the player!

 

それが本当に彼らの意思なのか? 他に選択肢がないのはどうしてか? 考え始めると止まらなくなってしまう。私はこの記事の前半に「ジェシーはヒーロー、スター」と書いたけど、そのジェシーが歌う一節。

Gotta be your stars

震える手を抑えながら

人一倍緊張しいだという、ステージの上ではカリスマ的に輝くジェシーが「あなたのスターにならなきゃ」と歌うなんて、なんだか見てはいけないような、それ以上にファンこそこの裏側の可能性をよく知っておくべきなような、ひどく心を揺さぶられる一方で、どう捉えて良いのかわからないような気持ちにもさせられる。

 

アイドルってなんなんだろう。アイドルとファンの力関係は。究極的にこの行為は倫理的な問題を抱え続けるのだろうか。この代えがたい高揚感は、人間を犠牲にして成り立つものなのだろうか。しかし彼らのプライドがそこにあり、アイドルとファンの奇跡のような時間もそこにある。だとしたら、やっぱりアイドルってなんなんだろうか。

「人人人」はちょっと痛みを伴う名曲だった。時間を追うごとに新しい挑戦や新鮮な表現を見せてくれるグループの、震える手を想像しながら今日も応援しかできない。